「7月に大災害が起きる」ベストセラー“予言書”の100万部突破で連想される「伝説の予言」
ブックバン 6/18(水) 6:00
「本当の大災難は2025年7月にやってくる」
オビでそう大きく謳うコミック『私が見た未来 完全版』(たつき諒・飛鳥新社)がベストセラーとなって久しい。
サブのコピーは「幻の“予言漫画”復刻!!」。
「完全版」ではない、オリジナルの『私が見た未来』が刊行されたのは1999年のこと。
この作品では、作者のたつきさんが見た予知夢にまつわる数々のエピソードが紹介されている。たとえばQUEENのボーカル、フレディ・マーキュリーの死に関する予知夢をたつきさんは見ていたという。
発売当時はさほど大きな反響を呼ばなかった同書が、強い注目を集めたのは、作品中で「大津波」の予知夢について描かれており、なおかつ表紙に「大災害は2011年3月」と手書きの文字で記されていたからだ。
これを受けて、東日本大震災後に「たつきさんの予知能力は本物ではないか」という声があがり、絶版だった作品が「完全版」として復刻されることに。
オリジナル版の頃には存在しなかったSNSの影響もあって同書は瞬く間にベストセラーとなり、今年5月にはついに100万部を突破することとなったのである。
もちろん、過去の「当たった予言」だけではここまでの注目を集めることにはならなかっただろう。オビにある通り、たつきさんは「2025年7月に2011年3月を上回る災害が訪れる」という予知夢を見たようだ。
「完全版」の中では、実際にたつきさんが夢を見た直後に描いた「夢日記」や、その大災害のイメージなどが紹介されている。ちょっと昔の少女漫画風のタッチや控えめな文章が、逆に誠実な印象を与え、それゆえに読者の心を震え上がらせる効果をもたらしている。
7月に何かとんでもないことが起きる――そのように聞けば、非科学的であるとはわかっていながらも、何となく不安になる、感情が動かされる。そんな人が多いからこそ、同書はベストセラーとなっているのだろう。
「7月」「災厄」「予言」という共通項
一方で「7月」「災厄」「予言」といった要素から、一定以上の年齢の方は恐怖とは別にノスタルジーを感じるかもしれない。
1970年代、日本中を席巻した「ノストラダムスの大予言」である。この本の影響力は甚大で、当時の日本人を恐怖に陥れた。オウム真理教などカルト教団がその力を悪用したことでも知られる。
ノンフィクション作家、本橋信宏氏もまた少年時代、この「予言」に震え上がった一人である。その著書『ベストセラー伝説』には、17歳だった本橋氏がどのようにこの予言を受け止めたのかが描かれている。おそらくそれは、多くの人々の当時の体験とも共通するものだったのではないだろうか。以下、同書から抜粋・引用してみよう。なお、文中の「男子高校生」とは本橋氏のことである。
***
210万部の「大予言」
1973(昭和48)年秋。
祥伝社という誕生して4年目の新興出版社から発売された五島勉著「ノストラダムスの大予言 迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日」が全国の書店から奪い合うように消えた。
1999年7月、空から恐怖の大王が降ってきて世界は破滅する、という恐ろしい予言が含まれるこの新書は累計210万部という驚異的な部数に達する。
埼玉県南部、所沢市で暮らす17歳の男子高校生は、将来自分は何か文章を書いて身過ぎ世過ぎを送ろうと夢想していた。彼は世情を騒がせているその大ベストセラー本を読んでみようと、地元の書店で買い求めようとしたのだったが品切れで、日曜日の午後、西武新宿線に乗って新宿の紀伊國屋書店まで買いに行ったのだった。
問題の書を手に入れた彼は帰りの車中で、世間を騒がせている予言書を熱心に読み出した。
内容はフランスの医師・占星術師ノストラダムスが著した「予言集」の4行詩をもとに、著者の五島勉が日本語に翻訳、解釈したものだった。
“地に棲む魚、海に棲む魚
彼らは強い波によって岸に打ちあげられる
その姿は異様で奇怪でおそろしい
それからしばらくのあいだ、人間の敵は海のそばの壁に来ることになる”
五島勉はこの詩をこう解釈する。
〈どう見ても汚染による奇形魚のことである。最近はそういう状況にマヒしてしまったのか、マスコミもだんだん採りあげなくなったが、一年くらい前までは、あちこちの海岸や川辺で、奇形の死魚たちが大量に浮きあがった、台風で岸に打ちあげられた、とひんぱんに報道されたものだ(中略)海辺や川辺のコンビナート群は、壁のように立ちふさがって、いっこうに人間の敵であることをやめようとはしていないのである〉
男子高校生がさらに衝撃を受けたのはこんな詩だった。
“弓型のなかで、金銀も溶けるような光がきらめく
とらわれ人は一方が他を食うだろう
その最大の都市はまったく荒廃し
艦隊も沈むので泳がねばならない”
五島勉によれば、弓型の国土をした国日本に、金銀も溶ける強烈な光がきらめく(広島・長崎の原爆)、最大の都市=東京は空襲で荒廃し、世界有数の連合艦隊も壊滅する。
予言のなかでも読者に最大級の恐怖を与えた有名な詩がある。
“一九九九の年、七の月
空から恐怖の大王が降ってくる
アンゴルモアの大王を復活させるために
その前後の期間、マルスは幸福の名のもとに支配に乗りだすだろう”
五島勉はこの詩を世界終末と解読し、空から恐怖の大王が降ってくる、という目に浮かぶような不気味な記述についていくつか説をあげている。
第三次世界大戦による空襲説。
大陸間弾道弾(ICBM)が降ってくる世界大戦説。
人工衛星によるレーザー光線攻撃説。
彗星激突説。
宇宙人襲来説。
超光化学スモッグ説。
1999年7月――43歳になっているであろう所沢の男子高校生は、結婚して子どもがいて、どんな仕事をしているのだろうかと想像した。
それとも空から恐怖の大王が降ってきて、この世に存在していないのだろうか。
***
言うまでもなく、1999年7月に世界は終わらなかった。
本橋氏は少年時代の夢を叶えて、文筆で身を立てることになった。
『ベストセラー伝説』では、本橋氏による貴重なインタビューも掲載されている。2018年、90歳近い高齢となっていた五島氏は、ノストラダムスについて次のように語っている。
「ノストラダムスはたまたまというか必然的にというか、行き当たった最大の題材であり、いろんな意味で感動する人物でした。最初は予言をしていた人という程度しか知らなかったけれど、興味をもって彼の書いたものを読んでいきました。
フランスの現地に行って調べているうちに、ただの予言者、医者ではない容易ならない人物だとわかってきたんです。
南仏の暴れ川の近くにあった街に生まれてペストを駆逐する医者になった。予言は趣味としてやっていたんです。
暴れ川がいつも洪水になるので住民が困っていた。パリから技術者をよんで洪水を止めないといけない。ノストラダムスが共鳴して、お金を出して工事を支えるんです。いまでいうエコロジスト。そういういろんな面をもっている人物です。ひけらかして有名人になれるはずなのに謙虚に一生を過ごした人でした。いまでもノストラダムスから足が抜けない理由です」(『ベストセラー伝説』より)
歴史は繰り返す。いままた「7の月」に恐怖を抱く人が増えているようだ。
もっとも、「予言」を外したことで、五島氏が猛烈な批判にさらされることになったのは何らかの教訓となったのかもしれない。令和の「予言書」とも言える『私が見た未来』について、版元のHPには以下のような文章が掲載されている。
《著者が記していた夢日記には「夢を見た日:2021年7月5日4:18AM」とありますが、著者は「2025年7月5日午前4時18分」に大災害が起こるとは一切言及しておりません。》
《具体的な日時を著者が述べているわけではないことを、当社としてあらためて強調させていただきます。報道やSNS等の断片的な情報により、読者の皆さまが誤解されませんよう、十分にご留意いただけますと幸いです。》
協力:新潮社 Book Bang編集部
Book Bang編集部
新潮社
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