NYで働く男が「裏カジノ」で大損し、スパイに転身…意外な人々が極秘任務を担う「スパイ小説3選」(Bookレビュー)
ブックバン 8/1(金) 6:00 亀野仁の新作『下請スパイの焦燥』は、ユニークなスパイ小説だ。主人公はニューヨークで撮影コーディネーターとして働く野上悠、通称ユウ。日本の代理店などから依頼を受け、海外撮影を請け負うのが仕事だ。 裏カジノで大損をし窮地に陥っていたところ、謎の日本人女性に救われたユウ。綾乃と名乗るその女性は、彼に撮影現場での極秘裏のミッションをもちかける。 アリゾナ州の国境付近、ルーマニアのブカレスト、ロンドン、スペイン南部。各地で撮影の仕事に追われながら、秘密のミッションを遂行する過程がコミカルに、アクティブに描かれる。撮影の手配や現場の様子が実に細やかに活写されて楽しい。著者自身、かつてニューヨークで映画助監督やCMコーディネーター/プロデューサーとして活動していたという。経験者だからこそ書ける、風変りで楽しいスパイアクションだ。 はからずもスパイになってしまった主人公といえば、 安壇美緒 の『ラブカは静かに弓を持つ』(集英社文庫)もそうだ。 音楽著作権の管理団体に勤務する橘樹が命じられたのは、音楽教室の潜入調査。著作権法違反の証拠をつかむため、彼は生徒としてチェロ教室に通うこととなる。演奏経験があるための抜擢だったが、橘は少年時代にある出来事に遭遇してチェロをやめ、以来悪夢に苦しんでいる。 ざっくばらんな講師や気さくな生徒たちと交わるうち、橘は演奏の喜びを取り戻していく。とはいえ皆を騙している身。やがて彼が下す決断は――。 ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』( 吉澤康子 訳、創元推理文庫)も意外な人々がスパイとなる。 冷戦下、ロシア系アメリカ人の イリーナ はCIAにタイピストとして就職。だがスパイの素質を見込まれた彼女は訓練を受け、極秘任務を担うことに。それは共産圏で発禁処分となった『ドクトル・ジバゴ』をソ連国内で広め、自国政府による国民への圧力を彼らに認識させること。国家の大作戦の裏側にいた、無名の女性たちの物語である。 [レビュアー] 瀧井朝世 (ライター) 1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』...