佐野寿宏のBOOKブログ!「前代未聞」と評論家が唸った…業界屈指のミステリーマニア・阿津川辰海の『少女は殺人の夢を見る』(Bookレビュー)
ブックバン 9/18(金) 6:00 荒岸来穂・評「読書会を開く、世界を拓く」 読書は孤独な営みだと言われる。ではなぜ、人は読書会を開くのだろう。 読書会に参加するたびにいつも驚かされるのは、同じ課題本を読んだはずなのに、参加者の読み方は千差万別なことである。共感できるものもあれば異議を唱えたくなるものもあるし、思いもよらなかった角度から切り込んでくるものすら出てくる。そうした自分とは異なる読み方に触れていくうちに、自身の読み方だけでは気づけなかった本が持つ豊かさが見え、世界が広がるような感覚すら覚える。 阿津川辰海の『少女は殺人の夢を見る』は、そんな読書会の醍醐味を小説上で再現しようという、メタ的かつ挑戦的な試みを行っている、前代未聞のミステリーである。 本作は大学生の獏田格を主人公とする連作短篇ミステリーである。ミステリーを愛読する獏田は、大学に入学すると読書サークル〈月夜のお茶の会〉に入会する。この会では活動の一環として読書会が定期的に行われていた。獏田も二年生の女性の先輩、夢見灯が主催する名作ミステリーを課題本とした読書会に参加する。 初回の課題本はカーター・ディクスン『第三の銃弾』。夢見が淹れてくれた紅茶をお供に、同好の士たちとの語らいを楽しむ獏田であったが、会の最中に異変が起こる。急に眠気を感じ意識が途切れた獏田が再び目を覚ますと、そこは課題本で描かれた事件現場とそっくりの部屋だった。しかも獏田は自身が課題本の中の容疑者と同じ立場に立たされていることに気づく。 夢見の父の助けで、ここが夢見灯が作り出した夢の世界であること、夢見が淹れた紅茶を飲むとこの世界に取り込まれてしまうこと、そして夢見が作り出した事件の謎を獏田が解き明かさないと、この夢からは解放されないことを知る。かくして獏田は、夢見が作り出す課題本の内容に酷似した事件に挑戦していくことになる。 夢見の読書会で課題本として取り上げられる作品はカーター・ディクスンのほか、アガサ・クリスティー、綾辻行人らが生み出した、洋の東西を問わない名作ミステリーばかりである。ただ、本作中で課題本の「ネタバレ」は一切されないので、課題本を読んだことがない読者でも安心して楽しむことができる。獏田が解き明かさなければならない夢見が作...