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「最初は読むつもりはなかった」私が藤島ジュリーさんのインタビュー本をおすすめする理由。――漫画家・ひうらさとる(Bookレビュー)

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 ブックバン      8/29(金)   6:00        小説家の早見和真氏が、ジャニーズ事務所の元社長、藤島ジュリー景子氏にインタビューした話題の本『ラストインタビュー 藤島ジュリー景子との47時間』。  自身もタレントのファンである漫画家のひうらさとるさんは、同書を読んで、ジュリー氏やジャニーズ事務所に抱いていたイメージが大きく変わったという。どんな部分が心に残ったのか。なぜ、読んでよかったと思えたのか。  ひうらさとるさんによるレビューをお届けする。  ***  この本は、小説家の早見和真さんがジャニーズ事務所の元社長・藤島ジュリー景子さんにインタビューして書き起こしたものです。  実は最初は読むつもりはなかったんです。タレントのファンのひとりとして、一時期、活動の場を奪われた彼らが、ようやく戻ってきたいまになって本が出ることに疑問を感じたから。  でも、ウェブ上に公開された冒頭50ページを読んで考えが変わりました。理由のひとつは早見さんの文章が非常におもしろかったこと。もうひとつは、毒親モノとして、ものすごい名著なのではという予感がしたからです。  さまざまな読み方のできる本だと思いますが、私にとってのいちばんの読みどころは、ジュリーさんの母であり、ジャニーズ事務所の実質的なトップだったメリーさんが孤高の天才でありどこにでもいる一人の“まちがった母”であったこと。この本はそのモンスターと戦い、生き残った娘の記録でもあります。  特に驚いたのは、ジュリーさんが結婚していた当時のエピソード。ジュリーさんの元夫に対して、当初は好意的だったメリーさんが、ある時から態度を豹変させます。そして、ジュリーさんと元夫に探偵をつけて、二人の仲を引き裂こうとしたというところ。  早見さんも指摘している通り、ジュリーさんの語り口は淡々としていて感情の起伏にやや乏しい印象を受けます。激動の人生なのに、どこか自分を俯瞰してみている。強烈な毒親に育てられると乖離に近い感覚になる人もいると聞きますが、まさにそんなタイプにも思えました。  山場のひとつは、8章「あの『週刊文春』について。あの『SMAP×SMAP』について」でしょう。  2015年にメリーさんが、はじめて「週刊文春」の独占インタビューを受けて事務...

「恋愛」することが「失恋」することでもあるような「生活」とは? 町屋良平の最新長編『生活』の魅力に、作家・詩人の井戸川射子が迫る(Bookレビュー)

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 ブックバン      8/29(金)   6:00     『生きる演技』『私の小説』の町屋良平による最新長編『生活』が新潮社より刊行。   本作を作家・詩人の井戸川射子さんが語る。   ***   「からだが先で、感情が後である。そしてことば先で、からだ後である」。言葉と感情に挟まれた身体を、形なきものを前後に携える身体を、どうしていくかが生活である。『生活』の主人公の「かれ」は、読者から見れば、絶え間なく恋をしている、「かれ」はこう思う、「恋愛感情をあずけた相手を『とても理解』するということは、恋愛というよりは失恋にちかしい経験で、恋を維持するにはそのような『とても理解』はいつだって仇なした」。自分に対してだってそうかもしれない、自分をとても理解していくことを目指してるんだけど、それは自分への期待を、失っていくのと同じくなるし。『生活』は二部に分かれており、第一部、「かれ」の身体との関わりは、着る服着せる服に主軸が置かれる。外見は、外見というものがあったのだと、後から発見されるような部分ではない。でも自分は後から発見するのだ、そこに他者の目とのずれがあるか、私にとって私の身体は、常に他人に遅れて発見されるものではないか。私が肌に違和感を覚える前に、他人が私についたごみを手を伸ばし取ってくれるような、自分の身体にフィットした、他人が測ったオーダーメイドの服を着て初めて、私には私の身体のシルエットが見えるというような。「ゼロからなにかが始まりイチになっていく過程の、その神秘とおそろしさとは……」と、「かれ」は作家である父親の、創作活動について語る。生活はたいていは何となく、ゼロから始まってはいない。自分というイチがもうあり、そのイチを保持していく行い、それがいつかゼロになるのは知っていて。身体との関わりはもちろん装いだけではないため、身体の動きといえば、時折やる書道の動きくらいであった「かれ」の身体は、第二部ではより激しい動きの中で揉まれ、他人の身体も多く周りに登場してき、それらとのずれも含んで、ずれは暴力ともなり得、生活は跳ねに跳ねていく、「かれ」の存在感は何となく希薄にもなっていく。その転機となるのが、第一部の最後であろう、そこで「かれ」の生活は一旦ゼロに肉薄する、...

現象学、ヴィクトリア朝英国にネット社会、読心術、魔術師にクラシック音楽…多彩な舞台で描かれたミステリ8冊を末國善己が紹介(Bookレビュー)

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 ブックバン       8/26(火)   6:00       面白い仕掛けのあるミステリを中心にした8冊を文芸評論家の末國善己が紹介する。  ***  笠井潔『夜と霧の誘拐』(講談社)は、現象学的推理を駆使する矢吹駆が活躍するシリーズの第八作で、ユダヤ系の富豪ダッソー家と第二次世界大戦中のナチスのユダヤ人絶滅収容所で三重密室の殺人事件が発生する第四作『哲学者の密室』の続編となっている。物語は独立しているが、前作を読んでおくと本書がより楽しめる。  1978年のパリ。駆と友人でワトソン役のナディアがダッソー家に招待された日、当主ダッソーの一人娘ソフィーと間違われ運転手の娘サラが誘拐された。同じ頃、ナディアの父でパリ警視庁のモガール警視は、聖ジュヌヴィエーヴ学院で起きた学院長殺しを捜査していた。  大富豪の子供と運転手の子供が間違われて誘拐される発端は、エド・マクベイン『キングの身代金』へのオマージュである(作中には、同作を翻案した黒澤明監督の『天国と地獄』への言及もある)。ただ身代金の受渡しは独自のもので、大金を持ったナディアがパリ中を駆け回るシーンのスリルには引き込まれるだろう。やがて誘拐と殺人には、同じ人物が関係し、同じ拳銃が使われた事実が判明するが、二つの事件を行うのは困難だった。  矢吹駆シリーズは、駆と実在の哲学者をモデルにした登場人物との思想対決も重要な役割を果たし、本書にはハンナ・アーレントをモデルにしたハンナ・カウフマンが出てくる。駆とカウフマンは、ナチスのユダヤ人虐殺、イスラエルを建国したユダヤ人によるパレスチナ人の迫害、ホロコースト否定論を始めとする歴史修正主義などを議論していく。駆は誘拐の本質を分析することで真相に迫るが、現在のイスラエルによるガザ侵攻が、パレスチナの武装組織ハマスがイスラエルの音楽フェスティバルを襲撃し多くの人質を取ったことが発端になったことを踏まえるなら、(本書は2010年の連載なので偶然ではあるが)駆の思索は現代と地続きになっていることも忘れてはならない。    18世紀のイギリス海軍の軍艦で連続殺人事件が起こる『帆船軍艦の殺人』で第33回鮎川哲也賞を受賞してデビューした岡本好貴の二作目『電報予告殺人事件』(東京創元社)は、ヴィクトリア朝のイギリスを舞...

「コンディションとか関係ない」キンコン梶原の動画が見られる理由とは? アル株式会社代表のけんすうが語る(Bookレビュー)

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 ブックバン       8/26(火)   6:00     お笑いコンビ・ キングコング の 西野亮廣 さんと 梶原雄太 さんが、コンビの日常や注目の人物、社会問題を語り合うYouTubeチャンネル「毎週キングコング」で、通称「 下町ロレックス 」として親しまれる配信回が漫画化した。  80分超えの長尺にもかかわらず350万回超の再生数を叩き出したエピソードは、梶原が自身のYouTubeチャンネル「カジサック」の登録者数200万人突破を記念し、スタッフと共に高級時計のロレックスを買いに行くことを思い立つというもの。物欲も、時計の知識もゼロのおじさんが、ロレックスを買うだけの話にもかかわらず、トークのテンポ感で引き込まれると評判を呼んだ。  内容ほぼゼロなのに人々を惹きつける理由をクリエイターとファンを繋げる支援をしているアル株式会社代表のけんすうさんに聞いた。 (※本稿は漫画『下町ロレックス』収録されたインタビューを加筆・再編集した記事です) 内容ゼロでもヒットする理由。それはAI時代に際立つ「表現力」だった ――けんすうさんはYouTube動画「下町ロレックス物語」を観たとき、どのような感想でした?  けんすう シンプルにめちゃくちゃ面白いなって。役立つような内容はほぼゼロなのに、梶原さんと西野さんの掛け合いだけで面白くするというスキルはすげぇなと思いました。当然、打ち合わせもないでしょうし、ジャスのフリースタイルのような感じですよね。 ――「チームカジサック」のおじさん5人がロレックスを買いに行くという内容で、現在の動画 再生回数 は350万回を超えているのもすごいことですよね。 けんすう 凄いっすよね。 ――けんすうさんは、その理由をどのように分析していますか?  けんすう 実は昨今、しっかり面白いコンテンツってヒットしづらいんですよ。例えばめちゃくちゃ評判のいい映画って、ちゃんとしたコンディションのときに観ようとか、時間があって集中して観れるときに観ようって思うじゃないですか。そう考えていると、なかなか重い腰が上がらない。結果として、今すぐ消費できるライトなコンテンツのほうが流行る傾向があると思ってて。下町ロレックス物語は重要度で言うと最下位で、コンディションとか関係ない(笑)。いつでも観れるってライ...

ダークでポップでグロテスクな日常をシュールに描き出す「スコットランドの鬼才」カミラ・グルドーヴァ『人形のアルファベット』書評(Bookレビュー)

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 ブックバン      8/25(月)   6:00       「スコットランドの鬼才」と称され英語圏でいま最も注目される若手作家、カミラ・グルドーヴァのデビュー短編集『人形のアルファベット』(上田麻由子訳)が刊行。 本作を詩人の小野絵里華さんが語る。 ***  突然、モノが喋り始めて困ったことがある。中学生の頃だった。お皿とか、お箸とか、なんてことないモノたちが急に話しかけてきたのだ。頭は正常だった(と思う)。それは、この世界の裏側から、モノたちの世界の方から、じっと見られているような感覚だった。その謎現象は気づけば治っていたのだけれど、カミラ・グルドーヴァが描くのも、そんな裏側の世界の声だ。  グロテスクなのに美しく、重たいのにポップ。彼女の作品の魅力はそんな両義性にある。十三の短編には、「ミシン」「人形」「虫」「缶詰」など共通のモチーフがちりばめられ、その世界はとにかく奇想天外だ。果物の皮をむくようにするすると自分をほどく女性が現れたかと思えば、墓場で働く夫が突然死体を持ち帰ったりする。しかもその死体は、山高帽とフリルのワンピースを身につけ、まぶたがぱっちり開き、まるで人形がこちらを見ているようだ。  裏側の世界の住人たち。それは、人形や、ネズミや、工場で働く女性であったりする。表から排除されたモノたち。ここではモノの方が生き生きとしており、人間たちはどことなく人形めいている。「まるで同じ工場で作られたみたい」だったり、妊娠して「ドールハウスになったような気が」したりするのだ。  やたらと屋根裏部屋が出てくるのも、偶然ではないだろう。登場人物たちはむしろそこで安堵しているように見える。屋根裏部屋に不要なモノを放り込むのは、表の世界を成り立たせるためだ。けれど、それらはかつてのわたしたちの一部なのであり、埃や蜘蛛の巣にまみれて、今もじっと息をしている。 「尿」や「血」などで彩られるのも、カミラ・ワールドの特徴だ。例えば、「ワクシー」の主人公は、ズボンをはいたまま小便をする、「腐った牛乳とネズミが混ざったようなにおい」のする若い男を家に連れて帰る。この不気味なものもまた、裏側に置いてきたもの、屋根裏部屋に放り込んだものだ。作者はそこに光をあてる。 「アガタの機械」は、十一歳の女の子たちの白昼夢のよう...