火事で蔵書を失う……貸本屋おせんシリーズ第2弾 『往来絵巻 貸本屋おせん』の読みどころ(書評)
ブックバン 7/24(木) 6:00
2022年田口賞最優秀新人賞に輝いた『貸本屋おせん』(高瀬乃一/文藝春秋)の待望の続編が発売された。 天涯孤独という言葉から連想されるような逆境に耐え忍ぶしめった人物像とは違う、したたかに生き抜く強さと怖いもの知らずの危うさを兼ね備えた主人公・おせん。彼女は、どのように成長しているのだろうか。 『往来絵巻 貸本屋おせん』(文藝春秋)。 貸本屋として生計を立てるおせんのお江戸出版界捕物帳第二弾である。女手ひとつでおせんが営む「梅鉢屋」は、店舗を構えていない。振り売りや棒手振りと同様に、お得意先をまわり歩いては、好みを聞いて本を揃えて、手頃な値段で貸す。読み終わった頃合いに回収に出向き、そしてまた新たな本を貸すというスタイルの貸本屋である。 高荷を背負って江戸の町中を振り歩くおせんの行くところでは本にまつわる事件が起きる。もはや、事件を呼び込む本屋と言っていいだろう。前作から引き続き、それぞれの事件は、日常の中で起こるようなささやかで不可解な出来事ではなく、現代に通じる倫理的な問題で、それが出版事情に絡めて描かれているのが特徴である。 「らくがき落首」ではいわれのない罪を、「往来絵巻」では見栄と体裁の罪を、「まさかの身投げ」では心中を、「みつぞろえ」では発禁本と背取りを、そして「道楽本屋」では盗用の罪を描いている。 「道楽本屋」では、出版に関する用語がたくさん登場する。複数の書肆が共同で出版する「相板」を巡るやり取りは、現代の版権の在り方を考えさせられる。今も使用されるが、昔とでは言葉の意味が変わっているものがあることも知った。「重版」という言葉の意味の変化は、単に出版の仕組みの変化によるものではない。出版の本質的な部分の転換を感じさせるエピソードだった。 中でも驚いたのは「みつぞろえ」である。 あんなにも真っすぐな本への愛をもったおせんが、この数年間でどうしてここまで……火事で蔵書を失い、お客さまの期待に応えることができないもどかしさが、こうさせてしまったんだろうか、と寂しさを超え、著者に対して憤りを感じながら途中まで読み進めた。そして、著者のたくらみに気付くのだ。いやいや、うまい! 参りました。 そして、今作にも、本を扱う仕事をしている者としてはグッとくる、本に対する言葉がたくさんちりばめられていた。 「百人が素通りする本も、たったひとりの心に響くのなら、これほどうれしいことはないではないか。」 百冊売ることよりも、そんな百の出合いをつなぐ本屋になりたい、と強くおもった言葉だった。 [レビュアー]田口幹人(書店人) 協力:新潮社 新潮社 小説新潮 Book Bang編集部 新潮社
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