文章を手掛かりにする「本占い」 とは? 若い女性が本占いで事件を解決していくミステリ(書評)
ブックバン 配信
名著には、印象的な一節がある。
そんな一節をテーマにあわせて書評家が紹介する『週刊新潮』の名物連載、「読書会の付箋(ふせん)」。
今回のテーマは「占い」です。選ばれた名著は…?
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「本占い」という占いがある。聖書や古典などを任意に開いてみて、そこにある文章から迷いごとの判断の手がかりにする。
百人一首を無作為に一首を選んで、我が身を占う「歌占」も「本占い」といっていいだろう。
高樹のぶ子の短篇連作『明日香さんの霊異記』はこの「本占い」が好きな明日香という若い女性が次々に起る不思議な事件を、「本占い」を手がかりに解決してゆくミステリ。
明日香は短大を出て奈良の薬師寺で絵馬やお守りなどを売る仕事をしている。
明日香には愛読書がある。
平安時代の薬師寺の僧、景戒が編纂した仏教説話集『日本霊異記』。若い女性の愛読書としては渋い。
といっても説教の部分より、そこに書かれている怪異譚に惹かれるから。
天皇がまぐわいをしたり、天皇の従者が雷を捕まえたり、死者が蘇ったりする奇想天外の話が面白いから。
明日香はある日、「母は殺された。どこに埋められているのか。母に会いたい」と書かれた絵馬を見る。
書いたのは中学生の男の子。なぜこんな謎めいたことを書いたのか。
少年の家は「岡本動物病院」。『日本霊異記』にも「岡本」という地名が出てくる。この本は現代の事件を予見していたのか。
そのあとも『日本霊異記』に書かれているのと似た事件が起きてゆく。
だから明日香は男友達にいう。この本は、安っぽい占いなんかじゃなくて「この世の予言なの」。
[レビュアー]川本三郎(評論家)
1944年東京生まれ。文学、映画、漫画、東京、旅などを中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『成瀬巳喜男 映画の面影』、『「男はつらいよ」を旅する』(共に新潮選書)、『マイ・バック・ページ』、『いまも、君を想う』、掌篇集『遠い声/浜辺のパラソル』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』、『叶えられた祈り』(共に新潮文庫)などがある。
協力:新潮社 新潮社 週刊新潮
Book Bang編集部
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