大森望が「何度でも読み返したい小説」とは? 『図書館の魔女』シリーズ著者の新作はまさに“多声文学”(書評)

 ブックバン    6/19(木) 6:00


 

 

 高田大介と言えば、『図書館の魔女』シリーズでその名を轟かす、世界レベルの本格ファンタジー作家だが、新作長編『記憶の対位法』は現代のフランスが舞台になる。

 

 時は2017年。主人公はリモージュの新聞社に勤める30歳手前の事件記者ジャンゴ。自分が生まれる前に死んだ祖父の古い家を遺品整理のために訪れた彼は、地下蔵で二十あまりの黒檀の小箱を発見する。中から見つかった古い木綿の紙片に記されていた言葉の意味は? ジャンゴは西洋古典学が専門の大学院生ゾエとともにその来歴を調べ始める。

 

“知的探究の喜びに満ちた最新長編ミステリ”と帯にあるとおり、文化・社会・政治・歴史・言語・音楽・思想・料理……がからみ合い、じっくり読まないと膨大な情報に呑み込まれそうだ(“マカロニの穴を開ける方法”までわかります)。

 

 題名の“対位法”とは、それぞれの独立性を保ちながら複数の旋律を調和させて重ね合わせる音楽技法。その対位法で書かれるのが多声音楽(ポリフォニー)だが、この小説はまさにそのような多声文学(ポリフォニー)として構築されている。

 

 物語の“定旋律”は、本文の冒頭、トルコ人街を訪れたジャンゴが投げつけられる「裏切り者(トレートル)」という言葉。北アフリカ系の外見を持ちトルコ語を操りイスラム文化に共感を抱き差別を憎むジャンゴが、なぜスパイ扱いされるのか。一方、亡き祖父は、戦後、対独協力者(コラボ)の汚名を着せられ、親族から離れて寒村にひっそりと暮らし、世を去った。ジャンゴが祖父の遺品を追ううち、さらにもう一人の“裏切り者”が浮上してくる。

 

 結末近くの一節を引けば、

 

〈過去が繰り返し呼び出されて今と混じり合う。それが記憶というものの、歴史というものの本質なのかもしれない。……時を超えて重なり合った過去と現在は互いに干渉しながら新たな共鳴を起こし、新たなハーモニーを響かせる〉

 

 何度でも繰り返し読みたい小説だ。

 

[レビュアー]大森望(翻訳家・評論家)

1961年、高知県生まれ。SF作品を中心とした翻訳・評論を長く手掛ける。責任編集を務めた『NOVA』全10巻で第34回日本SF大賞特別賞。訳書に『13日の金曜日』『航路』『すばらしい新世界〔新訳版〕』『息吹』、共訳書に『カート・ヴォネガット全短篇』(全4巻)、劉慈欣『三体』(3部作)など多数。著書に『新編 SF翻訳講座』『21世紀SF1000』『50代からのアイドル入門』、豊崎由美との共著『文学賞メッタ斬り!』『村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!』などがある。

 

協力:新潮社 新潮社 週刊新潮

 

 Book Bang編集部

 

 新潮社

 

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