ビスケットや糖蜜パン、弁当屋の鳥飯や山菜鍋。食べ物が美味しそうなファンタジー(書評)

 ブックバン    6/24(火) 6:00


 トラヴィス・バルドリーの『伝説とカフェラテ 傭兵、本屋をたてなおす』(原島文世訳)は、“剣と魔法”の世界を舞台にしたファンタジー小説で、主人公は戦うために生まれたオークという種族だ。女オークの傭兵ヴィヴが、骸骨兵士と戦闘中に脚を負傷し、ある港町に滞在する。そこで本屋を営む小鼠人(ラットキン)ファーンに出会う。

 

 まず、ケガのせいで働けないヴィヴが、ファーンに本を買わされたおかげで、これまで無縁だった読書に夢中になるくだりがいい。物語によって初めて“ここではないどこか”に連れて行かれたときの純粋な驚きと喜びが伝わってくる。本屋の窮状を知ったヴィヴはファーンを手伝う。本屋の近くにある大人気ベーカリーの店主でドワーフのメイリーとも親しくなるが、怪しい男があらわれて……。

 

 本書は『伝説とカフェラテ 傭兵、珈琲店を開く』に続く、ヴィヴが活躍するシリーズの第二弾で、時系列的には第一弾の前のエピソードにあたる。なんといっても素晴らしいのは、食べ物が美味しそうなところだ。ヴィヴと同様、メイリーが作るビスケットや糖蜜パンの虜になってしまう。潰れかけの本屋をたてなおす工夫も楽しいし、オークよりもさらに読書と縁遠そうな存在が本の魅力に目覚めるところも最高だ。

 

 美味しそうな食べ物があると、異世界を身近に感じて愛着もわく。上橋菜穂子の『精霊の守り人』(新潮文庫)は、アジアに似た架空の国を舞台に、女用心棒バルサと、実の父に命を狙われる皇子チャグムの冒険を描く。弁当屋の鳥飯や山菜鍋といった食の描写に惹きつけられずにはいられない。レシピ集も出ている。

 

 CS・ルイス『ナルニア国物語1 ライオンと魔女』(小澤身和子訳、新潮文庫)は、四人きょうだいが衣装だんすの奥にある別世界ナルニア国を訪れるファンタジーの名作。ナルニア国を支配する白い魔女が、人間の少年を懐柔するために食べさせる「ターキッシュ・ディライト」は、子供たちのあこがれのお菓子だ。お気に入りのおやつとお茶を用意して読みたい。

 

[レビュアー]石井千湖(書評家)

1973(昭和48)年佐賀県生れ。書評家、ライター。早稲田大学卒業後、書店員を経て20218月現在は書評とインタビューを中心に活動。著書に『文豪たちの友情』『名著のツボ賢人たちが推す! 最強ブックガイド』、共著に『きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド』『世界の8大文学賞受賞作から読み解く現代小説の今』などがある。

 

協力:新潮社 新潮社 週刊新潮

 

 Book Bang編集部

 

 新潮社

 

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