ぼくたちは、いらない子供なんです」少年の語る壮絶な話に引きずり込まれる…波乱万丈な人生模様が詰まった短篇集(書評)
ブックバン 6/29(日) 6:00
二〇一八年に『百年泥』(新潮文庫)で芥川賞を受賞し純文学作家のイメージが強い石井遊佳だが、新作『ティータイム』はエンタメ味の強い短篇集だ。どれも先の予測できない展開でぐいぐい読ませる。
表題作「ティータイム」の主人公は温泉旅館のルーム係だ。ある事情からひと月前にこの職についたばかりの明(あか)里(り)は、仕事に手を抜き愚痴の多いベテランや番頭との攻防に日々明け暮れている。ある時、休憩時間にケーキを同僚の子供である小学生の兄妹と分け合ったことから、彼らと“ティータイム”を共にすることが習慣化。兄妹の兄は〈ぼくたちは、いらない子供なんです〉と語り、どうやら家庭環境は複雑そうだ。じつは明里自身も疎外された人間であり、彼女は次第に、少年の語る凄絶な話の内容に引きずり込まれていく。
客船乗務員の日本人青年とインド人青年が波止場で出会う「奇遇」では、少しずつ互いの事情が明かされるが、どちらもとんでもない人生を歩んできた様子。二人の間につかの間の友情が芽生える話かと思ったら、終盤、話はノワールの方向へ。
「網ダナの上に」は少女の霊魂が主人公。彼女は踏切にいた母親を助けようとして一緒に列車に轢かれ命を落としたが、母親はさっさと生まれ変わり、彼女だけ列車の網棚に留まっている。乗客や乗務員を眺め、次の母親を見定めて生まれ変わろうとしているのだが……。
「Delivery on Holy night」は宅配ピザのデリバリー要員である青年の人生が語られる。小学生の頃、叱られた腹いせにサンタクロースへの手紙に〈みんな死んじゃえ〉と書いたところ両親と弟が事故死。そこから彼は数奇な運命を辿るが、青年となった彼の前に大迷惑なサンタが再び現れる。
どの短篇も波瀾万丈な人生模様が詰まっているうえ、著者ならではのことば遊びも混じった豊かな文章世界で楽しませる。
[レビュアー]瀧井朝世(ライター)
1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年〜2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。
協力:新潮社 新潮社 週刊新潮
Book Bang編集部
新潮社
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