新宿歌舞伎町にある赤字経営の病院、「母乳外来専門」の助産院 開業医の奮闘を描いた医療小説2作(書評)

 ブックバン    7/1(火) 6:00

 


 

 

 現在の医療小説ブームを支える“現役医師作家”の中でも、午鳥志季はエンタメ力がとびきり高い。近作の『君は医者になれない 膠原病内科医・漆原光莉と血嫌い医学生』(メディアワークス文庫)ではすっかり泣かされたが、最新作『このクリニックはつぶれます! ―医療コンサル高柴一香の診断―』(新潮文庫nex)では胸を熱くさせられた。

 

 物語の舞台は、新宿歌舞伎町の外れにあるいわざき内科クリニック。まもなく三〇歳を迎える院長の内科医・岩崎慎は、大学病院をドロップアウトし、祖父が遺した築五〇年余りのクリニックを引き継いだ。リノベーションに大金を注ぎ込んだのだが、待てど暮らせど患者が来ない。経営を立て直すべく、ネットで偶然見つけた医療コンサルタントに連絡してみると……やって来たのは年下の高飛車女性、高柴一香だった。彼女はクリニックの問題点をズバッと指摘し、改善案をすぐ実行に移す。コンサルでありながら医師免許を持つ、という異色の経歴から繰り出される妙手の数々も気持ちいい。

 

 本作のキーとなるのは、開業医は医者であると同時に経営者でもあるという観点だ。経営者として冷徹な判断を下すことは、医者としての矜持を捨てることになるのではないか。岩崎は当初そんな不安を抱いていたが、高柴一香と共に試行錯誤を重ねる過程で、考えを改めていく。優れた医者であることと、優れた経営者であることの両立はどのようにして可能か。展開の意外性と手数の多さの中に、新米開業医の成長ストーリーがくっきり屹立している。悪役への倍返しや、家族の絆の再確認というサブ要素も物語に華を添えている。

 

 泉ゆたかの『世田谷みどり助産院 陽だまりの庭』(光文社文庫)は、世田谷線上町駅近くにある「母乳外来専門」の助産院を舞台にしたシリーズの第二弾。一話完結の連作短編形式で、院長で助産師の“おっぱい先生”こと寄本律子と看護師の田丸さおりの元へ、悩みを抱えた新米ママたちが訪れる。産後鬱、「イクメン」の夫への不満、障害児……。

 

 出産には直接関わらない助産師、という設定が新鮮だ。律子は新米ママのおっぱいをマッサージし、授乳にまつわるケアをしながら、孤独や不安に震える彼女たちの心を言葉で癒す。律子が繰り返し語るのは、子育ての悩みを一人で抱え込まず、周囲の人々に協力を仰ぎ、世の中と繋がっていくことの重要性だ。それは、ネットの情報の渦に飛び込むことではない。「大事な情報は、人に訊くことです」「ネットの情報と違い、血の通った人間が持つ情報には善意と誠意、それに責任があります」。

 

 出産や子育てに限らずさまざまな不安は、メディアやSNSから大量に摂取した情報に由来することが多い。自分にとって大切な情報はどこにあるのか、答えを教えてもらった感触があった。

 

[レビュアー]吉田大助(ライター)

1977年、埼玉県生まれ。「小説新潮」「野性時代」「STORY BOX」「ダ・ヴィンチ」「CREA」「週刊SPA!」など、雑誌メディアを中心に、書評や作家インタビュー、対談構成等を行う。森見氏の新刊インタビューを担当したことも多数。構成を務めた本に、指原莉乃『逆転力』などがある。

 

協力:新潮社 新潮社 小説新潮

 

 Book Bang編集部

 

 新潮社

 

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