「あれ、今回の芥川賞の候補少なくない?」SNSで上がった疑問の声…分析すると“不自然さ”も(書評)

ブックバン    7/17(木) 6:00

 


 

 

第173回芥川賞の候補作が6月12日に発表された。 ・グレゴリー・ケズナジャット「トラジェクトリー」(文學界6月号) ・駒田隼也「鳥の夢の場合」(群像6月号) ・向坂くじら「踊れ、愛より痛いほうへ」(文藝春季号) ・日比野コレコ「たえまない光の足し算」(文學界6月号)  発表されると、「あれ、4作? 少なくない?」という声がSNSにちらほら流れた。候補作は5〜6作というのが長らく通例となっていた。4作止まりは、2017年上半期の第157回(受賞者は沼田真佑)以来だから8年ぶりである。  ここ数ヶ月、この欄に「新人小説が不作だ、旱魃だ」と書いてきた。だから候補作が少ないこと自体に疑問はないのだが、選出が不自然である。掲載号に注意していただきたい。  4作中3作が6月号から選ばれている。6月号に秀作が並んだという印象ははっきり言ってないし、不作旱魃といっても、候補作と同等かそれ以上と思われる水準の作は5月号以前にもいくつかあった。  上半期には文學界新人賞と群像新人文学賞の発表があり2作ずつ当選作が出た。今回、後者から駒田作が選ばれたわけだが、前者2作より優れていたとは見なしがたい。今期の群像新人文学賞は低調だった。だが、文學界新人賞から選ぶと、候補4作中3作が『文學界』掲載作となり、著しくバランスを欠いてしまう。  ……という具合に、作品以外の要素が采配を左右したのではないかと勘ぐってしまう候補の並びではある。  前回、6月号にはケズナジャット「トラジェクトリー」しか取り上げたい作はなかったと書いた。芥川賞でも同作を本命とせざるをえないが、鉄板とも評しがたい。作者および語り手が日本語を母語としない米国人である点に新奇さがあるとはいえ、主題自体は「自分探し」であり、ありきたりだと嫌われる可能性はある。  他は正直どれも受賞作に推すには弱点が目立ち、ケズナジャットを外した場合、完全に混戦である。「受賞作なしはなし」もまた長らくの通例だが、あわせて破られても不思議としない。 [レビュアー]栗原裕一郎(文芸評論家) 1965年生まれ。2008年『〈盗作〉の文学史』で第62回日本推理作家協会賞評論その他部門を受賞。共著で、『音楽誌が書かないJポップ批評』、『村上春樹を音楽で読み解く』『本当の経済の話をしよう』『石原慎太郎を読んでみた』などがある。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社 

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