室内灯の消えた機内で「隣席の男」との行為は熱を帯び…削除も修正もない完全版「エマニエル夫人」を小橋めぐみが語る(Bookレビュー)
ブックバン 8/1(金) 6:00
小橋めぐみ・評 エマニエル・アルサン『エマニエル夫人』
1969年の邦訳出版当時、削除や修正を強いられた本作が今年1月、完全版の新訳で世に出た。装丁は、横たわる裸婦の絵が紫色の地にあしらわれ、見返しは目にも鮮やかなピンク色だ。 映画でも知られるエマニエル夫人は、タイを舞台にあらゆる人と体の交わりを持つ。うだる暑さの首都バンコクに駐在し、なすこともなく暇を持てあますフランス上流階級の淑女たちに身を預け、少女と密やかで甘美な時間を過ごす。夫ジャンへの愛は揺るがぬまま、「ほんとうの女になるため」自分に足りないものを見つけたい、愛を極めたいと考え、積極的に体験を重ね、物語の最後には教養溢れる能弁家の紳士マリオと、現地の少年もまじえた恍惚の一夜を迎えるのだった。 すべての交流が性の深淵を覗かせ、また登場する誰もが魅惑的で忘れがたい人物ばかりであることを知ってもらう手がかりに、冒頭で出てくる女性に触れたい。 ロンドン発バンコク行き旅客機のファーストクラスに乗ったエマニエルは、12時間のフライト中、隣席の男性客によって思いがけず淫らな行為へと導かれる。 離陸後、座席でむき出しになった彼女の膝に男は視線を投げかけ、座席の高さを合わせた。期待と予感に妄想を巡らせるエマニエル。
「と、そのとき、男の手が彼女の手の上に置かれた」 室内灯の消えた中、行為は熱を帯びる。男のものに手を添え、指を上下させたエマニエルはついに「腕で、あらわになった腹部で、喉で、顔で、口で、髪で」相手の男の「白くて芳香のある長い噴射を受けとめた」。 直後、彼女の元に若いスチュワーデスが現れる。乳首もあらわに衣服の乱れた女性客を見て、一切を察し、エマニエルを化粧室に連れていくと、枯葉色のセーターをプレゼントする。戸惑うエマニエルに優しげな目を輝かせ、「それ以上は言わせないというように、丸くした唇に指をあて」、くるりと後ろを向いて「これでお拭きになってください、男性の香りです」とオードトワレを差し出すのだ。 そして、エマニエルが脱いだシルクのブラウスを拾い上げ、自らの顔に押し当てて声を漏らす。「ああ! なんていい香り!」 なんとチャーミングな! 名もないこの女性でさえ自由で、官能的なのだ。 Book Bang編集部 新潮社
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