佐野寿宏のBOOKブログ!土砂降りの雨のなか20年ぶりに再会した初恋の人、脱退したバンドの紅白出場…過去と現在が交互に描かれる2作(Bookレビュー)

 ブックバン     7/30(木) 6:00

 


 

 

 さわやかなものから苦しく重厚なものまで、さまざまな作風の小説を発表してきた吉田修一氏だが、またこれまでとは違う読み心地だ。清涼感に少しの甘さとほろ苦さが混じったような味わいが、『タイム・アフター・タイム』(幻冬舎)にはある。  物語は、ドラマティックな再会から始まる。建設会社に勤める尾崎颯が、美術館を建設する予定の公園を同僚と訪れたところ、大雨に見舞われてしまう。偶然タクシーをシェアすることになった女性の一人が、高校の同級生の久遠愛だったのだ。  キラキラと輝くような日々から始まり、重い現実を背負わされた尾崎と芯の強い久遠が、どうしようもなく惹かれ合っていく青春時代。それから二十年以上が経ち、どちらも順風満帆な人生を送っているように見える現在。共に時間を過ごした過去と、同じプロジェクトに関わることになったそれぞれの今の暮らしが、交互に描かれていく。だが、久遠は心に傷を抱えており、平和だった尾崎の家庭には、思いがけない事件が起きる。そして、ふたりが関わっている美術館建設に、危機が訪れる。  大人なら誰だって、過去に置き忘れてきたような何かを心の中に持っているのではないだろうか。戻ることができるなら、違う選択をするだろうか。積み重ねてきた時間の中で得られた経験や出会いの方を、大切に思うだろうか。そんなふうに考えたことが、私にもある。  困難に見舞われてもまっすぐな心を持ち続けている尾崎が愛しい。そして、器用ではないが懸命に生きる登場人物たちの人生に、自分自身に起きたいくつもの過去の出来事を重ねずにいられなかった。

 

 金子玲介氏『私たちはたしかに光ってたんだ』(文藝春秋)も、過去と現在が交互に描かれていく小説だ。二十六歳の瑞葉は、かつて自分がメンバーだったバンド「さなぎいぬ」が紅白に出場するという情報をネットニュースで知る。高校に入学してすぐに同級生四人で結成したバンドは、リーダーの朝顔の持つ眩いほどの才能により注目された。活動に夢中になった瑞葉は努力して高い演奏技術を身につけるが、夢が近づくほどに自分の凡庸さを自覚することになる。誰よりも朝顔の才能に惚れ込んでいた瑞葉は、あることを決断する。その後、会計士となった瑞葉は忙しく働く日々の中で、さなぎいぬだった頃を振り返り、未来の自分を想像する。  音がきらめくような躍動感のある演奏シーンと、次々に業務を処理していく多忙な仕事場の描写が素晴らしい。どちらの場面でも、文章の作るリズムが体に響いてくるようだ。十代の頃の自分のキラキラには一生勝てないと吐露する瑞葉に、職場の先輩が声をかけてくれる。かつて光っていた人も一度も光ったことのない人も、温かく包むようなその言葉が、心に残った。 [レビュアー]高頭佐和子(書店員。本屋大賞実行委員) 都内書店にて文芸書を担当 協力:新潮社 新潮社 小説新潮 Book Bang編集部 新潮社  

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