佐野寿宏のBOOKブログ!山奥の洋館に閉じ込められた“ミステリ作家”は殺人予告を回避できるのか…書評家が選んだ本格ミステリ4作(Bookレビュー)
ブックバン 7/31(金) 6:00
二〇二二年にアガサ・クリスティー賞大賞を受賞してデビューした西式豊の第三作『処刑館殺人事件』(早川書房)は、著者にとって初めての本格ミステリである。 小説講座の恩師の招待を受け、かつての受講生六人が山奥の〈岨景館〉に集った。恩師が姿を現さぬまま、様々な処刑具があちこちに配置された館において、“処刑人”による殺人予告の音声が流れ、そして殺人が発生した。凶器となったのは、処刑具の一つ、ギロチン台だった。その直後、下界と岨景館を繋ぐ跳ね橋が上がり、一同は孤立してしまう……。 ミステリファンの好物であろう状況である。その期待に違わぬ展開を示す本書だが、一方で、独自性も備えている。受講生たちはミステリの実作者であり、小説の登場人物たちのクローズドサークルにおける行動を知悉しているが故の知恵を働かせ、第二の殺人を回避しようとするのだ。こうした“ミステリ作家がターゲットであること”の影響がそこかしこに織り込まれていて、伝統的な舞台を新鮮に味わうことができる。さらに、終盤のひねりも予想外で素晴らしい。過去の二冊の著作が、それぞれ異なる魅力を高レベルで備えていたことを考えると、ぜひ注目すべき書き手である。
下村敦史の『ネタバレあり 双紋島の殺人』(光文社)もクローズドサークルを扱った一作。こちらは孤島だ――といってもそれをむき出しで読者に届けるのではなく、全体の八割弱を占める作中作『双紋島の殺人』に仕立てている。この構造がまず特徴的。さらに、その巻頭に“七つのネタバレ”が記されている点が極めてユニークだ。例えば、“島での最初の犠牲者は名探偵”“登場人物の一人は偽名”の様に。本書では、このネタバレと作中作構造の組合せが有効に機能していて嬉しい。そのうえで、東西二つに分離した孤島を舞台とする作中作パートにおける王道的展開も刺激的だし、一人称視点を中心とした記述の“不自然さの謎”も独自の魅力だ。著者の攻め手を満喫できる一冊。
同じ七つでもこちらは“条件”なのが、桜庭一樹と斜線堂有紀の『そうだ、君を憎めばいいんだ』(河出書房新社)。共通する七つの条件を活かした短篇のペアが四組収録されている。なお、七つの条件は各ペア読了後に明かされるため、ペアの二篇目を読む際は“条件はなにか”を探る愉しさも味わえる。とはいえ、痴漢被害者が抱く復讐心を掘り下げた一篇をはじめとする個々の物語はあまりに強力で、読み進むうちに作品世界に没頭してしまうだろう。構想も実作も素敵で満足至極。
芦沢央の『あなたが正しくいられたとき』(文藝春秋)は、独立した六つの話を収録した短篇集。主人公が川に転落した女児を救う表題作をはじめとして、人の行動や言葉と、その背後にある想いが読者のなかで結びつく瞬間に、驚愕と衝撃が強烈に生じる。そんな上質な短篇が並ぶ良書だ。
[レビュアー]村上貴史(書評家) 1964年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒。著書に『ミステリアス・ジャム・セッション』、編著に『名探偵ベスト101』『葛藤する刑事たち』など。共著に『ミステリ・ベスト201』『日本ミステリー辞典』などがある。 協力:新潮社 新潮社 小説新潮 Book Bang編集部 新潮社
.jpg)
コメント
コメントを投稿