佐野寿宏のBOOKブログ!なぜ58歳で逝ってしまったのか…早世の奇才「津原泰水」の“最高の1篇”が収められた『烏と孔雀』とは(Bookレビュー)

 ブックバン    7/10(金) 6:00

 


 

 

 2022年10月2日逝去。稀代の幻視小説家・津原泰水(やすみ)が亡くなってもうすぐ4年が経とうとしている。その喪失感は今もって埋めることはできない。少女小説から始まって、SF、ミステリー、幻想小説、青春小説、恋愛小説と、さまざまなテイストの作品を発表してきたけれど、どの作品にも共通するのが、この現世においてあり得たかもしれない、あり得るかもしれない真実の相を幻視で見通す力。津原泰水に相応しい冠は、「唯一無二」なのである。 「幻獣たち」(1998年7月発表)を皮切りに、「リサイクル(亀井省吾の場合)」(22年5月発表)まで全14作品を収めたこの『烏と孔雀』は、『譚集』『11eleven』に続く第3作品集。津原泰水の多面的な魅力に触れることができるラインナップになっているのだけれど、注目すべきは20年以降に発表された作品群ではないだろうか。SARS-CoV-2(コロナ)禍にあった時代に書かれた作品はどれも、濃淡の差こそあれど、あの頃の気配を伝えて素晴らしいのだ。

 

 アマビエのコスプレを自ら製作して身にまとう男子高校生の友情と先輩への淡い恋情を軽快なリズムで描いて、最後の2行で思いがけないほどのエモい境地へと読者を連れ去る「I,Amabie」。架空の国の架空の音楽の理論や楽器、演奏法を知的に生み出したばかりか、その背景に猛威をふるう螺旋熱を配することで、奏者である男の人生と愛を感情豊かに立ち上がらせる「カタル、ハナル、キユ」。とりわけ素晴らしいのが、女子高生の広島弁一人称で綴られる「恋するマスク警察」だ。通学電車で見かけた、絵が描かれた不織布マスクをつけている見知らぬ男性を〈エゴンさん〉と呼ぶ〈ウチ〉こと呂奈(ろな)の、若々しくて清々しくて愛おしい日々と気持ちをはずむ広島弁で描いて、変幻自在の文体家・津原泰水の面目躍如。なぜ58歳で逝ってしまったのか。口惜しい上にも口惜しくなる最高の1篇なのである。 [レビュアー]豊崎由美(書評家・ライター) 1961年、愛知県生まれ。フリーライター、書評家として活動。雑誌や新聞、WEBなどで書評を多数掲載。著書に『そんなに読んで、どうするの?』『ニッポンの書評』、共著に『文学賞メッタ斬り!』『百年の誤読(ちくま文庫)』などがある。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社  

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