佐野寿宏のBOOKブログ!784名もの学童が海の底に沈んだ…『対馬丸』を執念で著した芥川賞作家・大城立裕が「あとがき」に記した一文とは(Bookレビュー)

 ブックバン     7/23(木) 6:00

 


 

 

 名著には、印象的な一節がある。

 

 そんな一節をテーマにあわせて書評家が紹介する『週刊新潮』の名物連載、「読書会の付箋(ふせん)」。

 

 今回のテーマは「沖縄」です。選ばれた名著は…? 

 

 ***

 

 終戦前年の1944822日夜、沖縄から九州に疎開する子どもたちを乗せた対馬丸が、アメリカの潜水艦ボーフィン号の魚雷攻撃を受けて沈没した。疎開者1661名、うち学童は834名。生き残った学童はわずか50余名だった。

 

 この悲劇を、沖縄出身の芥川賞作家・大城立裕が、膨大な資料と聞き取り調査をもとに描いたのが『対馬丸』である。

 

 親たちは、危険な水域を通って子どもたちを運ぶのは軍艦だとばかり思っていたが、対馬丸は建造から30年が経った貨物船だった。

 

 子どもたちの疎開は国策だった。少国民の教育に差し支えがないようにするためだけではない。陸海軍の配備が進んで10万もの兵隊が沖縄にやってきたため、食料が不足しないよう、人口を減らさねばならない事情もあったのである。

 

〈このたび、みなさんが疎開するということは、とりもなおさずお国にご奉公することであります〉

 

 出航にあたって、市長や県視学はそう述べたという。

 

 危険を知らされず、修学旅行にでも行くような気分で乗船した子どもたちは海に沈み、波にのまれた。板切れや筏にすがって漂流した者も、多くが力尽きた。

 

 沈没後は厳しい箝口令が敷かれ、親たちは長い間、わが子の生死を知ることができず、霊を弔うこともできなかった。

 

〈国家の暴力によって子どもたちの日常の友情と夢を砕いた〉のが対馬丸事件だったと、著者はあとがきに記している。

 

[レビュアー]梯久美子(ノンフィクション作家)

1961(昭和36)年熊本県生れ。北海道大学文学部卒業。編集者を経て文筆業に。『散るぞ悲しき』で2006(平成18)年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞、同書は米・英・仏・伊など世界8カ国で翻訳出版されている。2016年に刊行された『狂うひと「死の棘」の妻・島尾ミホ』は翌年、読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞の3賞を受賞した。他の著書に『世紀のラブレター』『昭和二十年夏、僕は兵士だった』『昭和の遺書――55人の魂の記録』『百年の手紙――日本人が遺したことば』『廃線紀行――もうひとつの鉄道旅』『愛の顛末――純愛とスキャンダルの文学史』『原民喜――死と愛と孤独の肖像』など多数。

 

協力:新潮社 新潮社 週刊新潮

 

 Book Bang編集部

 

 新潮社

 

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