佐野寿宏のBOOKブログ!幕末・明治の激流から生まれた怪奇と伝奇。「帝都物語」以来の衝撃! 荒俣宏『文明怪化奇談』(Bookレビュー)

 ブックバン     7/15(水) 6:00

 

 


 

 本書『文明怪化奇談』は、「帝都物語」シリーズ以来、約二十年ぶりとなる荒俣宏の怪奇伝奇小説である。これを聞いて放っておけるはずがない。  作品は、塚原渋柿園が主宰する談話会で、幕末から明治へ流れる、文明開化という激流の中を駆け抜けた新聞記者たちが、自ら体験した奇談を語るという形式がとられている。 『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)の伝統をくみ、語られる初めの二話――「函館氷」「橘氏の火葬炉」は、それぞれ、箱館戦争と大逆事件が絡んでいるものの、怪異そのものはまだ可愛いほう。 「カーマンセラ嬢」の、第五回内国勧業博覧会での「不思議館」における“電気ダンス”のレントゲンと表裏一体となる被曝というように、早くも近代怪談への道が示されている。  続く「眼球の写真」の冒頭、日比谷焼討事件の夜、ビルの屋上に登った二人組の新聞記者が、近衛師団の敷地の上に出現したいくつもの光球を見る、抜群の発端はどうだ。この物語で作者は、国家規模の怪異を用意しているのだ。  そして、本篇で語られるその怪異――光の作用で網膜に平将門の絵が焼きつき、どこを見ても将門が見えるという怖ろしさは、笑い事では済まされない。  作者は、この抜き差しならぬ物語で、本書の重要なテーマを記している。すなわち、西欧文明に追いつけ追いこせと機械化の道をたどった近代が、庶民にもたらしたものは何だったのか。  ある一部の者をのぞいて、そのあまりに早い変化に追いつけなかった者にとっては、近代そのものが怪異であり、人々はその前に無力でしかなかったのである。  作者は「二笑亭の電話」で、電気・電話・電流をモチーフに、「狂人」の創作した屋敷の深部へ潜入していくことと、関東大震災を二重写しにすることによって、紙くずのようにひしゃげてしまう近代文明の姿を活写している。近代伝奇小説の勝利である。 [レビュアー]縄田一男(文芸評論家) 昭和33年(1958年)東京都生まれ。専修大学大学院文学研究科博士課程修了。『時代小説の読みどころ』で中村星湖文学賞、『捕物帳の系譜』で大衆文学研究賞を受賞した。大衆文学研究会の会長、チャンバリストクラブの代表を歴任。著書に『武蔵』、『歴史・時代小説100選』、『ぼくらが惚れた時代小説』(山本一力、児玉清との鼎談集)、『図説 時代小説のヒーローたち』(永田哲朗との共著)などがあり、新聞雑誌で文芸評論に健筆をふるっている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社 

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