佐野寿宏のBOOKブログ!高市政権「サナエノミクス」の産業政策を批判した元日銀副総裁は、なぜ姿勢を転換したのか? 岩田規久男・著『日本経済の分岐点』(Bookレビュー)

 ブックバン     8/10(月) 6:00

 


 

 

 高市早苗政権の経済政策(サナエノミクス)の評価は難しい。「責任ある積極財政」を掲げているのはわかる。だが、いま私たちが直面している物価高や円安の進行、そして米中対立の国際情勢の中で、サナエノミクスがどんな意味をもつのか、なかなか全体像がわからないだろう。

 

 本書はその意味で、サナエノミクスの特徴を、物価や円安など国民の関心の高いテーマを中心に論じていてわかりやすい。アベノミクスは雇用の改善とデフレ脱却をほぼ果たした。だが着実な成長と実質賃金の上昇は課題となって残されている。サナエノミクスの標語である「責任ある積極財政」とは、AIや半導体など今後の成長が見込まれる分野や、防衛、環境対策に長期的で野心的な投資を政府が自ら行うということだ。もちろん民間とのコラボも必要だが、政府が積極的にリスクをとり、民間が活動しやすい環境を生みだすことになる。これを「新しい産業政策」という。  興味深いのは、著者が以前からの産業政策について批判的な姿勢を転換していることだ。従来の産業政策は失敗の連続だった。なぜなら政府には民間を超えて市場で成功するノウハウがないからだ。よくいって宝くじのようなものだ。当たればでかいが、その確率は小さい。  だが最近の国際情勢の激変、たとえば大国の経済的威圧や中東危機での石油不足を想起すれば十分だが、どの国も自国民の生活を保護するための「危機管理」が重要になっている。それが著者の転換の理由だ。確かに政府は成長性や輸出競争力を見出すことは得意ではない。だが巨大なリスクへの対応は政府の方が民間よりも優位だ。危機管理を通じ、国民の生活を護りながら、民間の市場を切り開く。それがサナエノミクスの特徴だ、と著者はいう。ただし手放しの評価ではない。政治・経済的なリスクが詳しく解説されているのも見逃せない。 [レビュアー]田中秀臣(経済学者) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社  

コメント

このブログの人気の投稿

実は「聖書」の発行部数がアメリカ・イギリスに次ぎ第3位の日本…キリスト教信仰をもち29歳で亡くなった「八木重吉」の言葉に思うこと(Bookレビュー)

佐野寿宏のBOOKブログ!気鋭の作家・土門蘭による初小説! 時代も国境も貫くヒストリカルサスペンス『戦争と五人の女』 評者:植本一子(Bookレビュー)

フィクションでは書けない驚きと深み 浜田哲二、浜田律子『80年越しの帰還兵』(Bookレビュー)